発表●川俣シャモ丸焼きは二十一世紀型焼き鳥の指針である。
「焼き鳥を思い浮かべよ」と聞いた瞬間、あなたの頭の中にはどんなイメージが現れるであろうか。たぶん図@のような形状を思い浮かべるに違いあるまい。次に唐突ながら二十年前にタイムスリップしてしまう。そこで同じ質問をするのである。すると二十年前の人も同じく図@を思い浮かべるに違いない。ひょっとすると四十年前、それ以上前の人も「焼き鳥」と聞いて図@をイメージする可能性が高いのではないか。
時代は刻々と変わっているのですぞ!二十一世紀になってもうずいぶん経つのですぞ!たとえば「電話機を思い浮かべよ」という質問なら二十年前どころかここ数年だけでも大きく変わっているのである。食べ物にしても、ラーメンなんかは「背油チャッチャ系」「家系」とかなんやら、どんどん変化、進化しているのである。イチローや松井は大リーグで大活躍しているのである。これだけ時代は最上川の激流のごとく変化しているというのに、焼き鳥は四十年以上図@でいいのか!
そこでだ、当紙は二十一世紀型焼き鳥を提案する。それが「川俣シャモ丸焼き」である。
福島焼き鳥党秋合宿にて試食
当紙の編集を担当する「福島焼き鳥党」は川俣シャモ丸焼きを体験するため、十月中旬に秋季合宿を開催した。場所は群馬県利根郡片品村。なぜそんなところに行く必要があるのかはよく分からないが、電気もガスもないという山小屋が会場となった。
参加者は福島焼き鳥党の党首K子さん、党三役のH、S、M各氏、党事業局長A氏、K子党首の甥F君十五歳、M氏の長男四歳の計七名。折りしも紅葉真っ最中の時期で大渋滞に飲み込まれて五時間以上かけて会場入り。
さ〜て、丸焼きの挑んでみよう!
用意するもの。(奥様メモのご用意を。)
川俣シャモ一羽、中抜き三,三〇〇円也が材料である。重さ約一.八キロ(キロ一八〇〇円)。中抜きというのは内臓を抜いてあるものだが、写真のとおり、裸の鳥さんの姿をしております(インターネットからでも購入できます)。卵から育てられこんなに立派な姿に成長した後でご丁寧に内蔵まで抜かれて、「ハイ、どうぞ食べてね」てな姿でこの値段は安い。
水。
油、塩、コショウ。
薪、鍋、鉄板。
菜箸、ヘラ、フライ返し、ナイフ。
まず火をおこす。このへんをくどくど説明するとたいへんなので各自自分のやり方で火をおこす。杉の葉が落ちて茶色くなったのがあると便利ですね。(ここは蛍光ペンでマークしといてね)
火はガンガン焚いてよろしい。そしたら水を入れた鍋をかける。あらかじめ石やレンガで鍋をセットしやすくしておきましょう。
湯が沸いたら川俣シャモを投入!うひひひひ。なぜ最初から焼かないのかというと、焼いて中まで火を通すと表面が真っ黒に焦げてしまうから、ていうのと、もう一つ理由があるのだがこちらは後述する。
じっくり一時間。野外であるからして、このへんで缶ビールなんぞを取り出して、プシューッと開けて飲んじゃう。二十一世紀は「スローフード」の時代である。ゆっくりじっくり、語りながら待ちましょう。
さて六〇分経過。鍋を降ろして次に鉄板を準備する。ここで重要なのはシャモを煮た鍋の中身はそのままにしておくこと。決してそのへんに捨ててはいけない。
鉄板を火にかけ、熱くなった頃合を見はからって油を引く。やがてパチパチパチと鉄板の上が跳ね始める。そこへ茹で上がった川俣シャモをドーンと乗せるのである。二キロ近い重さがあるのでよくよく気をつけてね。
いよいよ「焼き鳥」に変貌するぞ
鉄板の上の川俣シャモ。ジュージューと音を立てていく。これぞまさしく「焼き鳥」である。以前当紙で「豚肉を使っても焼き鳥なのか」という論文を書いて「焼き鳥」という言葉の定義のあやふやさを徹底追求したことがあるが、これは見るからに誰も文句ナシナシの「焼き鳥」である。なにせ鳥の形のまま焼いているのだ。疑問を挟む余地もない。
あとは焼け加減をみながらヘラやナイフでシャモを解体していく。これが大切な作業である。普段われわれは焼き鳥屋で、やれ皮だ、やれモモだ、やれ手羽だ、と好き勝手に注文し食べている。しかしですね、その時に鳥さんへの感謝をすっかり忘れてしまっているのではないだろうか。モモはモモとして、皮は皮として製造されてるが如くイメージでむさぼり食っているのではあるまいか!二〇世紀は飽食の時代であったが、二十一世紀は心豊かに食材に感謝の気持ちを持ちながら食べるべき時代なのである。
この解体作業をしながら「あーここがモモなんだなあ、一生懸命運動してこんなにおいしそうになったのねえ」とか「皮とはまさに皮なんだ」と実感しながら鳥と接している。参加した十五歳のF君なんぞ驚きに目を輝かしながら解体しているではないか。これは情操教育にもなるぞ。
ここに塩、コショウを適当に振る。味付けはそれだけ。バラバラに解体された箇所にいい感じで火が通ったところで口に入れる。そして川俣シャモの実力が発揮されるのである。
「んまい!」
どうしてこんな簡単な調理でこんなにおいしいの?神様は川俣シャモさんにどんな力をお与えになったの?そう言って天を見上げてしまうほどのパワフルな味である。皮はパリッと、肉はジュワっと。グルメ漫画の名作「美味しんぼ」の海原雄山が「しまったァ」と言って美食倶楽部の人事異動を発令してしまうほどの味である。骨の周りなんかもたまりません。
会場の山小屋はすっかり闇に包まれている。みんなヘッドランプを頭に灯してガツガツと食べる。あひゃっという間に一.八キロのシャモは骨だけを残すのみとなってしまったのであった。大往生である。
川俣シャモの生産者の方に深く感謝し、あとは宴となる。残り火に薪をくべて暖をとりながら酒を酌み交わす。
これで終わりなのか。いや、シャモはまだ我々に大きなプレゼントを残しているのである。そう、先ほどの茹でたスープである。
翌朝、少し酒の残った頭で目覚め再度火をおこす。そして昨日のシャモを茹でた鍋をそのまま火にかける。湯気が出る頃、強烈な香りのスープがそこにできている。塩で味を調えるだけで超美味の川俣シャモスープの完成である。われわれはここに前夜の残りの野菜とうどんを入れて朝食にした。
リサイクルの時代である。調理しやすく茹で、その過程でできたスープが朝の食事となる。なんとすばらしい循環!
これでみなさまにも納得いただけたことであろう。ブロイラーと違い、平飼い開放鶏舎でのびのび運動と日光浴をしながら野菜や青草を食べさせ、運動をさせることによって飼育した健康的な川俣シャモ。しかも安い。そして食材への感謝の気持ちを抱かせ、情操教育にも役立ち、しかも無駄なくリサイクルしてすべてを食べつくす。また福島県民にとっては地元産の食材で「地産地消」でもある。さらにはなによりも文句なしに美味い。
まさしくこの川俣シャモ丸焼き(+スープ)は二十一世紀型焼き鳥の指針となるべき料理なのである!
もちろん薪を使わず、ご家庭のコンロでも同様の方法でも出来ます。念のため。