検証●人間はいったい何本焼き鳥を食えるか?
「大食い入門」という本(ソニー・マガジンズ発行)がある。某テレビ番組の大食い企画の内容を中心に、大食いに関わる諸データ、文章が掲載されている。
見れば、1杯1キロのちゃんぽん7杯。餃子100個を21分。わんこそば530杯。恐ろしい数字が書き連ねられている。朝に駅弁9個、昼しゃぶしゃぶ2.4キロ、夕方ちらし寿司7.4キロ、夜おでん50種を食べる細身の女性もいた。
これらの記録に「焼き鳥」は見当たらない。
回転寿司の皿のように、食べた串で結果が明白となる焼き鳥は実は大食いに向いているのではないか!そして日本で最初の焼き鳥大食い記録を作って「日本記録」を大いに威張ろうじゃないか!そんな酒飲み話が早速具体化されることになった。
題して「人間はいったい何本焼き鳥を食えるか?」。
最初の日本記録に挑戦する選手は4名。
まずは某学校教員のミスターTさん。現役でラグビーをやっている身体がたくましい、回転寿司平均25皿食べる強者。優勝候補である。
続いて当紙読者代表の美人妻K子さん。過去に40本食べた経験があるそうだ。
あやしい覆面男、自称「焼き鳥仮面」。味を調整するためにわざわざニンニク味噌持参。
それと某まちづくり団体会長・杉田氏(仮名・会津出身)。風邪気味でマスクをして来た。
会場は福島市置賜町の村上屋支店の奥座敷。取材班を含め7名が記録を公認する審査員である。来賓にT市議もお招きしている。
焼き鳥仮面
6時30分より開会式。祝電等が披露される(嘘)。まずは50本ほど注文をして6時45分に食べ始まった。注文は選手のお好み。覆面の焼き鳥仮面が勢いよくスタートダッシュ(こういう人って持たないんだよなア)し、他三名はビールを飲みながら淡々と食べていく。30分経過で焼き鳥仮面は早くも20本クリア。一番ゆっくりのK子さんで14本。
それぞれ会話も弾み和やかな雰囲気で進む。店のカウンターにお客さんが増えたせいもあり、焼き鳥がなかなか出てこない。一生懸命焼いて下さっているが4名の選手は着実に本数を増やし、全員が余裕で20本を達成した。
7時45分、一時間経過。焼き鳥仮面29本、杉田27本、ミスターT26本、K子さん22本。(4人で104本)
選手は食べた串を数えやすいよう自分の前ティッシュペーパーの上に10本単位で置いていく。置き方は9本並べた上に斜めに10本目を置く「インディアン式(写真右)」と、10本ことに井桁の型を作っていく「群馬式(写真左)」の2種があるが、どちらでもよいことになっている。
偶然店の奥のテレビから吉幾三の「酒よ」、八代亜紀の「舟歌」が続いて流れた。この挑戦にふさわしい「焼き鳥がおいしくなる」2曲を全員しみじみと鑑賞。
王貞治氏の五十五本を超えよ!
審査員の一人が言い出したのである。「今年近鉄のローズ選手がホームラン年間日本記録にあと一本で届かなかったよね」。王貞治氏の55本が記録だ。「あと1本ってところで敬遠でさんざん逃げたチームもあったよね。あれはよくない。だから今日はぜひ王さんの55本は抜いてほしいと思う」。
選手全員の目がうなずいた。そうだ!日本記録というからには王選手の記録はなんとか抜きたい!(と思ったはず)
口直しに辛子ナスが出る。ひたすら焼き鳥を食っている選手はみんな手を出し、「さっぱりするなあ」という感想。それを聞いた見学者が一口食べたらあまりの辛さにひっくり返ってしまった。選手の味覚は狂ってしまったようだ。
全員が30本を超すとさすがにピッチが遅くなってくる。焼き鳥仮面が突如プロレス談義を始めた。肉がたっぷり胃に入ると格闘技の話をしたくなる体質なのだそうだ。すると面白いことに選手全員がプロレスにやたら詳しいのであった。なにかと話題が盛り上がる。
さらに店にはお客が増え、焼き鳥が間に合わなくなり選手があせりだした。「間が開くと辛くなるんだよ!」リズムが狂い、休むことで胃が重くなっていくようだ。
ぼちぼち限界の時がきたぞ!
20時30分 トップを走っていた焼き鳥仮面が突然「もうダメだ、バカ野郎!」と叫んで畳に突っ伏した。最初の脱落者である(やっぱり)。
残り3名は表情変わらず、血圧異常なし。杉田氏は「レバーをタレで!」と濃い注文をしている。「辛くなってはきたなあ」とK子さん。男性陣も「55本はちょっと無理だな」。
20時45分、2時間経過。焼き鳥仮面34本で棄権、杉田39本、ミスターT39本、K子さん34本。
40本目をじっくりと食べたミスターT、「限界です」と静かに一言。優勝候補の脱落である。K子さんも「あと1本といったところかな」とそっと終わりを告げた。
21時10分。全員の同意をもって終了とする。最終結果は優勝・杉田42本、二位ミスターT40本、三位で女子の部優勝K子さん38本、焼き鳥仮面36本(終了間際に悪あがきの二本食い)。現在の焼き鳥大食い日本記録は、42本ということになったのだ。
優勝の杉田氏
ところがチャンピオンの杉田氏による優勝の挨拶を聞き、会場は驚いてしまった。「今日は3時にチョコレートを食べ、風邪気味なので5時にお粥一杯、それから会場に入る前に納豆ざるそば大盛を食べてきたのが悔やまれます。空腹でやればあと5本はいけるでしょう」(オイオイ)。 これならいずれ王選手の55本に届きそうである。そしていつかは3ケタ、と夢は拡がる。
日本記録保持者・杉田秀明氏(仮名)は「いつでも挑戦を受けますぞ。さあかかって来い!」と自信満々。挑戦者が現れたらまた第2回大会を開催する予定である。
ちなみにこの日審査員も含め計11名で、220本の焼き鳥を食べた。村上屋支店のおじさんおばさん、ご協力ありがとうございました。そしてお疲れ様でした。