挑戦★世界で一番長い焼き鳥を作る。 (略してセカチョウ)
この夏、アテネオリンピックでの日本人選手の活躍は目覚ましかった。世界の大舞台で栄光を目指して堂々と戦い、結果を出して表彰台でメダルを首に提げ満面の笑みを浮かべる姿には大いに感動した。
何らかの形で自分も世界に挑んで人々に感動を与えてみたい、と思った人も少なくないだろう。…と、いかにもその後の展開が読めそうな出だし文だが、そう、この福島を舞台にわれわれも「焼き鳥」という分野で世界に挑んだのである。
思えば「福島を焼き鳥で有名なまちにするのだ!」といろんな活動をする中で、やはり「焼き鳥のまち」を標榜する久留米市や今治市などは「人口に対する焼き鳥店舗比率が日本一である」とか具体的数字に基づいた「日本一」というキーワードを持っていた。そういう客観的数字のないわれわれがこんな雑紙を出したりしても「だから何なのお?」とあしらわれていた(勝手に思っているだけかも)。
そこへ、「世界一」というすごい企画が沸いてきたのである。七月二十三日、二十四日開催の「川俣シャモまつりIN福島市」の中で実施の「ギネスに挑戦・世界一長い焼き鳥」である。開催の二週間前に川俣町役場から協力依頼の電話があったので「やりますやります!世界一に挑戦します」と即答した。その時の眼差しは平泳ぎの北島選手にちょっと似ていた、とその場面を見ていた会社の事務の女の子にあとで言われたものだ。
そうして二十四日の午前中に当紙編集を担当するヘンチクリン団体「福島焼き鳥党」がK子党首を含め六名が集って挑戦。三十四度の太陽と一三〇度(?)の炭火に挟まれて汗まみれで七・九メートル(上写真)という第一回目の記録を達成した。会場で指揮されていた川俣町農業振興公社(川俣シャモの生産・販売元)のサイトウ専務と終了後に懇談し、「さらにキッチリやって十メートルの大台を出し、正式に世界一として名乗りを上げましょう!」と固い約束をした。その時の眼差しは卓球の愛ちゃんにちょっとも似ていなかったと同行した妻に言われた。
世界に向けてトレーニング
数日後、再度川俣町役場より電話が入った。八月二十八日に本場川俣町で「川俣シャモまつり」をやるので、再度世界一への挑戦をすることが決まったとの話であった。
目標は大台の十メートル。
それから福島焼き鳥党は厳しいトレーニングを開始した。ロッキー山脈の標高三五〇〇メートル付近での「超高地トレーニング」はお金がなくて取りやめ、しかたなく各自イメージトレーニングをすることにした。風呂場で隠れるように「気合だあ!」と叫んでいた人もいたという。
日本の金メダルラッシュがピークを迎えた八月二十八日、世界一長い焼き鳥への再挑戦の日が来た。
福島焼き鳥党関係者が再度K子党首を筆頭に他五名プラス子供二名が午後五時に会場である川俣町中央公民館に揃った。川俣シャモまつりは屋台村のテントがそれぞれ大いににぎわっている。とにかくどの店も川俣シャモのメニューで、親子丼、唐揚げといったお馴染み鳥料理の他、シャモトマトスープとかシャモピザ、シャモ手巻寿司と、いろいろある。
この挑戦は参加費五〇〇円で先着二〇名という方式を取っている。最前列を陣取り、五時二〇分受付開始と同時に参加チケットを購入。二〇名の選手が揃って六時からいよいよ世界挑戦である。顔ぶれは全日本期待の精鋭部隊!という感じではなく、老若男女入り乱れの町内運動会・全世代リレーという雰囲気。
目標の十メートル以上のテーブルが並び、串を置く。これはなが〜い竹を縦に細長く切ったもので、しなるので丸まっているがこれを伸ばすと当然ながら十メートル以上ある。
まずはこのなが〜い串の両端から肉を刺していくことから世界記録への作業は始まる。山積みされた川俣シャモの肉片は計十二キロ、約十二羽分。ぷりぷりムチムチの十二キロ(なんかいい響きだなー)。
両端から刺される肉を、それぞれ串の中央部に向って二〇人が送っていく。この作業に必要なテクニックは、まず串を折らないこと。「竹だから大丈夫」なんて安易な気持ちが少しでもあれば世界は狙えない。それから肉の間隔をあんまりギュウギュウに詰めてしまうと中までよく焼けないし、逆にスカスカにすると肉と肉のすき間の串に火が点いて折れてしまう可能性がある。串を露出させずにほどよい量を配置させる必要があるのだ。寄せて上げてのブラジャーをする時のような手つき(経験ないけどたぶんそんな感じ)で慎重に肉を送る。
正確に長さを測定し、一〇.〇〇メートルに仕上げるまで約二〇分を要した。
テーブルの上にはU字溝をずらりと並べた特製焼き台がセットされ、すでに赤くなった炭が強い遠赤外線を放出している。
肉全体にまんべんなく塩コショウを降り、今回も指揮を執るサイトウ専務の号令で十二キロ十メートルの串を慎重極まりなくトング(ピンセットの親分みたいなやつね)で、全員の掛け声で「せーの」と持ち上げ、焼き台に乗せる。
会場の中心で「せーの」を叫ぶ
ホッと一息つくヒマもなく、焼きに入る。この焼き鳥は、ただ長いのを焼けばいいというのではなく、美味しく焼くのだという崇高な思想で成り立っているので技術がいるのだ。
炭火が強くなったせいか、あっちこっちで脂身に着火して炎があがる。串を焦がす危険があるのでサイトウ専務を中心にウチワ等による消火作業が続く。しかしウチワであおぐことで逆に炭を発火させてしまい「あーまたー!」「こっちもこっちも!」と声が上がり消火部隊は忙しい。脂身を取ってしまうこともあった。
それから全体に火を通さねばならないので時々ひっくり返すという作業がいる。普通焼き鳥屋ではヒョイヒョイとできる作業も大掛かりである。やはり二〇人が一丸となって「せーの」とやるわけである。とにかくなんでも「せーの」でやらないと、一人の勝手な動きで世界記録がダメになってしまうのだ。あまりにも「せーの」「せーの」と叫ぶので会場にいた清野さんという方から「なんでオレの名を呼び捨てするのか!」クレームが入ったという噂もある(ないか)。
約十五分。「せーの」の繰り返しのおかげでバランスよく肉は焼け、サイトウ専務の判断で焼き終了。最後に全体を持ち上げ、串の折れがないか確認する。最後の「せーの」で見事十メートルの焼き鳥の完成が確認された。
老若男女混合チームは全員でバンザイし、感動を分かち合った。この歴史的事件を取材に来たマスコミは一社もなかったことは今後厳しく糾弾されるべきであろう。
とにかく我々はやったのだ。世界で一番長い、一〇.〇〇メートルの焼き鳥を完成させたのだ!分野こそ違うが北島君やヤワラちゃんと同じ偉業を果たしたのだ!
世界一長い焼き鳥は二〇分の一の五〇センチに分けて切断し、参加者全員に配られた。そして世界一長い焼き鳥は世界一美味い焼き鳥であることもよく分かった。
ギネス申請についてはかなり費用がかかるので検討中とのことです。